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感染症

なぜノロウイルス対策は徹底できないのか その②

2017年3月16日の食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会において、大量調理施設衛生管理マニュアル改正案について話し合われ、「ノロウイルス検査の努力義務」が追記されたなど、改正案は大筋で了承されたものの、複数委員から高コストな検便検査など対策の実効性を疑問視する声が上がりました。また今村知明委員(奈良県立医大)は「もはやノロウイルスは食中毒対策では限界がある」と強調し、感染症として取り扱うことを厚労省に求めました。

難しい話ですが、この内容のポイントは2つです。

①ノロウイルスは検出が難しい。可能ではあるが、はっきりその有無を確認するためには高コストである

②ノロウイルスを食中毒という範疇ではなく、感染症扱いにしてほしい
 
まず①から。
大量調理施設では調理従事者に月1回以上の検便検査を求めていますが、その内容はサルモネラ、赤痢、O-157など数種類を含んでも1回につき1000円ちょい(検査会社によります)です。しかしながらノロウイルスに関してはたった1種類でその4~10倍のコストが生じます。
 
これにもいろいろ理由がありますが、まずノロが菌ではなくウイルスであるということです。例えば菌であれば、検便サンプルを処理して適切な培地で培養することによって目的の菌がいるかどうかわかります。しかしウイルスとなればそうはいかず、ウイルスの遺伝子を人為的に増幅させ、その存在を確認しなければなりません。
 
ウイルスによってはウイルスごと培養することも可能なのですが、さらに残念なことに人類はノロウイルスの培養技術をまだ持っていないのです。
 
またノロウイルスは少ない数でも感染できるという特徴を持っているので、発症前のさらに数が少ない時などは、いよいよ発見が難しくなってしまいます。
 
コスト高、発見が難しい、人工培養できないなど、様々な要因からノロを事前に検出するというのは非常に難しいのです。
 
 
次に②ですが、そもそも食中毒と感染症の違いはなんだと思いますか?
 
「食材を通じて感染するもの」が食中毒で、「人(もしくは動物など)から人へ感染するもの」が感染症です。
 
ご存知のようにノロウイルスは牡蠣などの二枚貝を食することで感染しますので、食中毒で間違いないわけです。
 
それでは食品加工場でのノロウイルス混入、これはどうでしょうか?そもそも貝を扱っていない箇所になぜ発生するのでしょうか?これは従事者がどこかで感染して場内に持ち込み、そこから食材に接触することにほかなりません。
 
その食品加工場で買ったものを食べたのだから食中毒でしょ?いやいやそもそもは従業員が感染していたものだから感染症でしょう?ノロの線引きが揉めている理由はここなんです。実はノロウイルスは厚労省からは感染症と定義されており、感染症法で定点報告義務のある5類感染症に属しています。なので厚労省に求めるまでもなく、そもそも感染症として扱われているのです。すなわちノロウイルスは食中毒の原因でもあり、感染症の原因でもあるのです。
 
 
これを見てるみなさんは「いやそんなことどっちでもよくない?」と思われているかもしれません。いやいやこれ、食品製造の立場から言えばえらい違いなんです。
 
 
食中毒と感染症で本当に我々が知るべき違いは「責任が求められるか否か」ということなのです。
 
食中毒を発生させると、まず社会的責任が発生します。ご存知のようにメディアに報道され、社会的な信用が失われ、廃業に追い込まれる可能性もあります。
 
また行政処分として、食品衛生法に基づいて営業の停止もしくは禁止、営業許可の取り消し、商品の自主回収や廃棄などの不利益処分が課せられます。
 
民法やPL法に基づいて被害者から損害賠償を請求される可能性もあります。
 
さらに刑事上の処分として、食品衛生法違反として3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる可能性があります(食品衛生法71条)。また、業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させたことになりますので5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(刑法第211条)。
 
食中毒って大変ですね。だからこそ「ノロウイルスは食中毒という範疇から外して感染症扱いにしてくれ。だって事前検出も技術的・費用的に難しいんだから」と厚労省に訴えているわけです。
 
さらに悪いことにノロ自体が不活化が難しい部類のウイルスなんです。アルコールを一生懸命かけたところでいっこうに不活化できないし、石鹸で手を洗ったところで無駄です(洗い流せますが不活化はできません)。
 
静岡県給食協会にて2年間キエルキンを学校給食製造工場すべてで採用頂きましたが、その間、静岡県では学校給食由来のノロウイルス集団感染は1件も起きませんでした。事前に給食加工場の責任者を集めて使用方法の徹底を呼びかけたのも功を奏したのかと思います。
 
キエルキンが外されたあとの3月にまたノロウイルス集団感染が起きたときには非常に悲しい気持ちになりました。
 
調理従事者の感染抑制、発見が難しいのであれば、現場で徹底的に叩くべきだと思います。
 
食中毒から外すべきかどうかの論議ではなく、いかに正しい運用をしていくかということが優先される社会であってほしいと思います。
 

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